まず、正当防衛が成立するためには反撃の根拠となる侵害が「急迫」なものでなければならない。この文言を素直に解釈すれば、侵害が差し迫ったものでなければならないようにも思える。つまり、あらかじめ侵害があるのではないかと予測しているのであればその侵害は「急迫」ではないので正当防衛は成立しないとも考えられるのである。
閑静な住宅街に住むAは、最近治安が悪化してきたので護身用として催涙スプレーを携帯していた。ある夜の帰り道、暴漢に襲われたので、Aは用意してあった催涙スプレーで反撃した。暴漢は目を痛め、全治二週間の傷害を受けた。
ある政治集団Xは近々集会を開こうとしていた。しかしこの集会のときを狙って対立する団体が襲撃を仕掛けてくるという情報があった。そこでXのメンバーらはこれを機に対立団体を壊滅させようと目論み、集会場に角材などを準備していた。集会が始まると案の定襲撃があったのでXのメンバーは用意していた角材を武器に反撃し、多数のけが人を出した。
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どちらの例でも侵害をある程度予想している。しかしそれを理由に急迫性を否定して正当防衛が成立しないとすると、特に1の例で不合理である。そこで、ここでいう「急迫」とは侵害を受けた者の受け取り方ではなく、客観的な状況をいうと理解されている。よってどちらの例の侵害も、どんなに侵害を予測していたとしても急迫性が否定されることはない。しかし、2の例では侵害を契機として相手に積極的な加害を行おうとする意思(積極的加害意思)を有している。このような場合にはもはや急迫性の要件を満たさないと考えるのが判例の立場である。なお、積極的加害意思と積極的加害行為を同視する見解も有力である。